精神疾患の分類は将来変わる?DSMとNature論文から考える

精神疾患の分類が将来どのように変わる可能性があるかを、DSMとNature論文をもとに考えるイメージ 認知・ものの見え方

同じ「うつ病」と診断されていても、人によって状態や困りごとはかなり違います。
環境が変われば楽になる人もいれば、逆に悪化する人もいる。

それなのに、診断名はひとつ。
このちぐはぐさに、なんとなく違和感を覚えたことはないでしょうか。

精神疾患の診断には、DSMという基準が使われています。
DSMは、現代の精神医学を支える重要な道具です。

ただ最近、Nature誌に掲載されたある論文を読んで、「精神疾患の分類は、将来どう変わっていくのか」 という問いをあらためて考えるようになりました。

専門的な知識がなくても読めるように書いているので、いろんな方が気軽に読み進めてもらえたら嬉しいです。



※この記事について
私は精神科医ではありませんが、大学・大学院で生物学、神経科学、行動科学を学びました。
本記事は、医療を否定するものではなく、分類の考え方を整理する試みです。

精神疾患の分類はなぜ必要なのか(DSMの役割)

精神疾患の診断には、DSMという共通の基準があります。

DSMがあることで、次のようなことが可能になります。

  • 医師同士が同じ言葉で話せる
  • 研究や治療の基準をそろえられる
  • 制度として医療を運用できる

つまりDSMは、「現場で使うための、実用的な分類」です。

この記事は、DSMが間違っていると言いたいわけではありません。
むしろ、DSMがあるからこそ精神医療が成り立っている、という前提に立っています。

生物学の分類も完璧ではない(サメとイルカの例)

ここで、生物学の有名な例を紹介します。

サメとイルカは、どちらも海を泳ぎ、流線型の体とヒレを持っています。
見た目だけを見ると、とてもよく似ています。

しかし実際には、サメは魚の仲間、イルカは哺乳類の仲間です。

これは、同じ環境で生きていると、ルーツが違っても似た姿になるために起こります。
生物学ではこれを収斂進化と呼びますが、難しく考える必要はありません。
見た目が似ているからといって、中身まで同じとは限りません。

リンネ式分類とは何か(見た目で分ける分類)

昔の生物学では、形や構造といった「見た目」をもとに生き物を分類していました。
これはリンネ式分類と呼ばれ、当時としてはとても画期的な方法でした。

名前をつけ、整理することで、生物を体系的に理解できるようになったからです。

ただし後になって、見た目が似ている理由は必ずしも同じではない、ということが分かってきました。
重要なのは、昔の分類が間違っていたのではなく、当時は見られる情報が限られていたという点です。

DSMは精神疾患の「症状ベース分類」

DSMの精神疾患分類も、構造的にはリンネ式分類に少し似ています。
DSMは、どんな症状があるか、どんな困りごとが起きているかといった、外から観察できる情報をもとに分類しています。

これは実用性という点では非常に優れています。

一方で、生物学の例と同じように、背景が違っても、似た症状に見える可能性もあります。
つまりDSMは「間違っている」のではなく、見ているレイヤーが違う分類だと考えることができます。

Nature論文が示した精神疾患の遺伝的な重なり

ここで、今回のきっかけになったNature論文を紹介します。

Mapping the genetic landscape across 14 psychiatric disorders
https://www.nature.com/articles/s41586-025-09820-3

この研究では、発達障害、うつ病、双極性障害、統合失調症など、複数の精神疾患について遺伝的なデータをまとめて分析しました。
そこで見えてきたのは、診断名ごとに遺伝的な背景がきれいに分かれているわけではない、 という事実です。

これはDSMを否定する研究ではありません。
ただ、現在の分類と生物学的な構造が、完全には一致していない可能性を示しています。

精神疾患は遺伝だけでは決まらない

ここで誤解してほしくないのは、遺伝的な傾向があるからといって、必ず精神疾患になるわけではない、という点です。

同じ人でも、置かれている環境、求められる役割、
受けるストレスが変われば、状態は大きく変わります。
例えるならば、魚は陸では生きられなくても、水の中では自然に泳げます。

精神疾患も、個人の欠陥というより、環境との相性の問題として理解できる側面があります。

精神疾患の分類は将来どう変わる可能性があるか


DSMは、今の医療にとって不可欠な道具です。
ただ、生物学の分類が時代とともに変わってきたように、精神疾患の分類も、将来は別の軸で語られる可能性があります。

遺伝的な傾向、脳の働き方、発達のプロセスといった情報が積み重なれば、診断名の位置づけも変わっていくかもしれません。

今回のNature論文は、その方向性を示唆する研究だと受け取ることができます。

まとめ|DSMは不完全だが、今は必要な分類

DSMは万能ではありません。
しかし、今の精神医療を支えるために、とても重要な役割を果たしています。

一方で、生物学の歴史が示すように、
分類は時代とともに更新されていくものです。
DSMもまた、将来に向けて変わっていく可能性を持つ、「現在の地図」だと言えるでしょう。

この記事が、 精神疾患や発達特性を考えるときの、 ひとつの視点になれば幸いです。


参考文献・リンク

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